「学びに向かう力」を育てる授業の現状と課題(コロナ禍で)

会報「教育のひろば石川・№157(令和3年2月発行)」に掲載した内容です。

座談会「参加者」敬称略

○司 会   大杉  繁 氏(金沢教育振興会 会長)
○出席者   榎木 洋平 先生(金沢市立中央小学校 6年担任)
        濱高 大一 先生(金沢市立富樫小学校 6年担任)
       宮一 奈保 先生(金沢市立南小立野小学校 4年担任)

 

座談会記録抜粋


司会 現在コロナ禍にあり、様々な方面で影響が出ています。学校においても、休業措置が取られました。運動会や音楽会等の行事も中止や縮小になったと聞いています。また、子ども達の姿にも変化が見られるようです。
そうした厳しい教育環境の中で、新学習指導要領に明示されている「主体的・対話的で深い学び」に向けての授業実践が果たして可能なのか、危惧されるところです。
 そこで今日は、前半にコロナ禍での子どもの育ちの現状や課題について、後半は授業改善について話を進めていこうと思います。
先ず、授業以外の学校行事や校務等でご苦労されていることについてお話しください。

宮一 感染防止対策については、学校全体で、マスクをすること、距離を取ること、換気をすること、接触時間を短くすることの四点に気をつけています。
授業のスタートでは、必ず、マスクを付けていることの確認をしていますが、時間がかかります。子ども達の中にはマスクを付けることに敏感になっている子もいます。今までのスタート前の注意とは違ってきています。
 夏の暑い時や寒くなってきた時にも、もちろん換気をしています。五月、六月はペア学習を一切していなかったのですが、九月以降は気をつけながら少しずつ授業の中で取り入れてきました。
 行事については、運動会は保護者の参加がない形で、一年生から六年生まで全校で取り組むことができたのは良かったと思います。コロナバージョンという新しい形は、今後プラスの意味で活かされていくのではないかと思います。
 しかし、それ以降は大きな行事がないので、行事を通して高めていこう、深めていこうとすることができません。 遠足もないとのことでしたが、六年生は城下町ウォークに参加しました。四年生は社会見学に行くことは 出来ませんでしたが、出前授業に来てもらう、バスを利用して金沢ふるさと偉人館に行く等、気をつけながら校外学習を実施しました。各学年で対応している現状です。
 八月末に授業があった時には、消毒作業を担任が全部行っていましたが、九月に入ってからは、保護者の方々の協力で、校内の様々な場所の消毒をしてくださっています。また、体温チェックカードを配布、記入してもらい、二週間毎に回収し、保健室で管理をしています。
 四月・五月、家庭で過ごす時間が多くなり、ゲームに費やす時間が多くなってきたことにより、子ども達の間ではトラブルが起きてきました。これについては今後意識して指導をしていかなくてはならないと考えています。

濱高 今までの校外学習では、路線バスを使うことがありました。でも、それが無理になると、貸し切りバスを使わなくてはいけません。保護者の経済的な負担も増えるので大変です。
 校内では、マスクは感染防止対策の効果が高いので、徹底しています。でも、マスクが必要なのは、相手と話したり発表したりする時なので、熱中症にならないように、暑い時は外しても良いとの対応をしています。熱中症予防とコロナ対策とのバランスを取りながら進めているのが現状です。
 消毒についても、五月終わりの分散登校時は、子ども達の机や椅子、出入り口のドア等徹底して行いました。六月・七月は、共有物や体育で使用するホイッスル、ゼッケンも回収して消毒をしました。理科については、一学期は理科室を使用せず、教室で授業を行いました。理科室は、向かい合って座ることや共有物を使うことが多いからです。現在は、予算が付きましたので、先生以外の方に消毒をお願いしています。
 入学式は行いましたが、一年生を迎える会や六年生と一年生が一緒にプールに入ることも出来なくなり、子ども達は寂しそうです。子ども達が一番辛かったのは、楽しみにしていた行事の合宿がないことでした。六年生には、どうしたら小学校生活に満足して卒業していけるか、今悩んでいるところです。
 校長先生からは、富樫プロジェクトを立ち上げ、六年生が中心となり、富樫小学校のキャラクター作りを進めているところです。
 休業中は、子ども達の話では面白くなかった。家では何もできなかった。けれども、学校へ来たら、友達がいるから楽しいと言っています。

榎木 本校も同様です。運動会は、保護者の参観があり、全校で出来ました。声は出さないけれど、応援合戦も出来て良かったと思います。
 コロナ禍で、いろんなことが出来なくなり、マイナスも多いのですが、失ったものばかり考えるのではなく、その中から良いものをすくい上げていかなければ駄目だと思っています
 例えば、運動会の応援合戦。例年だと、三つの団に分かれてしています。しかし、今年はウェーブなし、応援歌もなしという状況で、応援団の子ども達がいろいろと考えを出しました。応援合戦にかける時間は短く、全体練習もありませんでしたが、子ども達はみんな背中を伸ばし一生懸命やっていました。
 今まで時間をかけてやっていた運動会ですが、来年度からは見直すきっかけにしていかなければと思っています。
 その他、主任に関わる負担が増えました。例年通り出来ないからこそ、今、チーム力が問われています。主任を中心して共通理解したことが共通実践出来るように、チーム力が大切だと考えています。

司会 学校が一丸となって感染防止対策を行っている実態が良く分かりました。
教育課程の実施についてもご苦労があると思います。次に、授業の現状や課題についてお話しください。

濱高 四月・五月は学校休業でしたので、一学期が短くなったのは非常に大変でした。七月までの学習内容は密度の高いものでした。進度に追われれ、厳しいものがありました。授業の中身についてはどうだったかと振り返りますと、若干不安が残ります。
 ペア学習やグループ学習は、極めて少なくするということで、十分以内にしました。新学習指導要領では、「対話的」が明記されています。仲間といかに関わり合いながら学びを進めて行くかが課題です。本校の研究テーマである「話す・聞く」に取り組むことにも、つまずいています。二学期からは、修正をしながら進めていくことが課題だと考えています。

榎木 主要四教科の学習時間を確保してきました。その他の教科については、隔週で行った教科もあります。技能教科がなく、一日に算数二時限、国語二時限授業を行う日もあり、子ども達は今疲れが出始めています。毎日六時限、木曜日は七時限、土曜授業も増えてきて、集中力も低下し手遊びも目立つようになりました。「しっかり」や「頑張ろう」と指導することも多くなりました。
 十月になると、これではいけないと思うようになりました。そこで、毎週「ナイスレター」を子ども達に書かせて目を通しました。すると、いつも私が指導している子の隣の席の子が「〇〇さん、いつもヒントをくれてありがとう」と書いていました。私はその子に対して、けじめを付け授業中のおしゃべりをやめて欲しいと思っていましたが、子ども達はその子に対して、「教えてくれて、ありがとう」と言っている。私の注意が、子ども達の中では、ありがとうに変わっています。私が私語だと考えていたおしゃべりは、学習に関する大切なつぶやきだったのでしょう。
 先生も見方を変えないと閉塞感が出てきます。私も、子ども達の長所を見つける努力をしていきたいと思います。

宮一 習熟を図りたいと思っていましたが、なかなか出来ませんでした。私は八月から現場に復帰しましたが、授業は思ったより進んでいました。定着が不十分な中、新しい内容の学習に進むので、子ども達は大変だったと思います。そんな中、主体的に学びの意欲を持続させながら学ぶことは厳しいように感じました。
 立ち止まる時間が必要だと思い、クラスみんなの良いところを見つけ合う活動を取り入れると嬉しそうでした。
 単元を通した言語活動を行うことや目的意識を持って他の本を読んで活用する授業は、今年は難しいと思っています。子ども達と楽しい授業をとも思っていますが、対話やグループ活動も難しい。グループで話すと声が大きくなるので、時間を制限しています。

司会 過密な教育課程を実施していくための先生方の努力はよく分かりました。新学習指導要領では、子どもの学びに向かう力、人間性の涵養が育てるべき資質・能力の柱として揚げられています。現状はどうですか。主体的・対話的で深い学びに視点をおいた授業改善についてお話しください。

榎木 今年は、残念なことですが各種研究会が開催されませんでした。しかし、今まで先輩方にご指導いただいたことと新学習指導要領に明記されている内容とは、そんなに変わらないと思っています。単元の最初に意欲を喚起して、最後に「分かった」に到達する単元構成をすることの大切さは変わっていません。先生方も単元を意識しています。
 新学習指導要領では、各教科の見方・考え方を働かせるための具体的な指導が大切であるとされていますので、振り返りのコメントにも気を付けています。例えば、社会科の歴史教材では「源頼朝すごいね」ではなく、「前の時代の平清盛と比べて、すごいと分かったんだね」というように、「比較」という、見方・考え方の評価をします。また、「今の自分の生活と関連させて考えているね」等、繰り返し評価していくと、「関連づけ」ができるようになります。これからも、振り返りのコメントに力を入れていきたいと思います。

濱高 進度が速かったので、子ども達に学び方を身に付けさせることは難しかったです。しかし、九月以降、問題解決の場面で、短い時間ですが、対話を取り入れる学びの力も付いてきたように思います。
 今、見方・考え方を活用して、自分達で学習していくという学習者としての自立が求められています。以前と変わっていないと言われながら、大きな転換が必要とされています。子ども達の学びの自立をどうさせていくかを考えながら実践を進めて行かなくてはいけません。

宮一 みんなで考えを出し合って解決していくことを大事にしていきたいと思います。「自立」の基にあるのは、「学ぶことは楽しい」「分からないことが分かると楽しい」「みんなで思いや考えを出し合いながら学ぶことは楽しい」という思いです。
 算数では、式や図、言葉を使いながら説明したり推理したりする。国語の「ごんぎつね」では、初発の感想から課題を三つに焦点化し、話し合いを進めていくと、最初「かわいそう」と思っていたことが、最後に気持ちが伝わった。青いけむりはごんの気持ちだと気付く。みんなで勉強して良かったとなるような学びをこれからも大事にしていきたいと思います。そのためにも、学び方に関する振り返りは欠かせません。

司会 学び方を身に付けるにはまだ至っていないけれど、振り返りではみんなで学ぶ大切さに気付いているとのことですね。こうした現状を踏まえ、今後どのような試みができそうですか。

榎木 国語や算数、社会の教材研究を学年で分担して行っています。一時限一時限の授業をどうするかより、まず、この単元で大事なことは何かを話し合っています。具体的に、どんな振り返りを書かせると良しとするかについて考えています。
 さらに、この単元でつけたい力を明確にして、教材研究を行っています。自立するために、どんな見方・学び方をすれば良いのか、単元においてゴールの姿を考えて実践しています。

濱高 見方・考え方と三つの資質・能力の育成に心がけています。見方・考え方については、子ども達が分かるように、アイテムカードの様な形で板書に位置づけています。そして、子ども達がそのカードを使う機会を増やしたり、使えたことを褒めたりして価値付けすることは大切です。
 今、若い先生と学年を組んでいます。若い先生は、教材研究が上手です。しかし、授業が充実するのは、教材研究だけでは十分ではありません。子ども達のモチベーションを高める学級経営が大事です。教材研究と学級経営。同時に行っていかないと、どんな良い素材であっても、子ども達は自分のものとして受け止めて学んでくれません。ですから、学級経営に取り組む姿も若い先生方に伝えていきたいと思います。

宮一 これからも単元を意識して実践を進めていきたいと思います。また、本校は、英語の研究をしています。高学年は週二時限、月にして八時限授業があります。毎時限、単元のゴールを確認しています。繰り返し繰り返しすることで、子ども達は「今日はこれを学ぶのだ」と見通しを持って取り組んでいます。見通しを持つことは、大切なことです。
 ところで、先ほど学級づくりが大切だとのお話が出ていましたが、私も同感です。学級経営を土台として授業が成立します。子ども達が育っていると、意欲があると感じます。

司会 見方・考え方を育てることや対話力を付けること、学級経営が大切だとの話も出てきました。認め合ってみんなで勉強することは楽しいと思えることが大切ですね。
 今年は「コロナ禍」で通常の学校生活を営めない年となりました。授業時数や学校行事は縮小や削減となってしまいましたが、令和3年度の新年度になったら「学びに向かう力を育てる」ために、担任として「どのような取組や授業を進めていきたい」と思いますか。最後にお一人ずつお話しください。

榎木 諸先輩から「学校生活の大半は授業。だからこそ授業を充実させ、子どもが満たされるようにしないといけない。」と教わってきました。 
 そのために、まず教材との出会いを大切にしたいと思います。同じ資料でも提示のタイミングや見せ方を工夫すれば、子どもの問題意識を高めることができると考えます。また、板書を工夫することで、子どもの疑問や意見を整理して学習の見通しが持てるようにしていきたいと思います。さらに、単元において何ができるようになれば良いのか、何が分かれば良いのかを子どもと共有していくことも大切にしたいと思います。
 これらのことは、どの教科にも共通することなので成功も失敗もたくさん繰り返しながら、子ども達や同じ学年を組んだ先生達と一緒に授業を創りあげていきたいです。

濱高 一人一人の力として、先にも述べたように見方・考え方を繰り返し学ぶことを通して、自らで見方・考え方を発揮することが出来る力を高めていきたいと思っています。そのために、授業の中で表れた見方・考え方を褒めることでモデル化を図ったり、教師側から提示したりしていきます。さらに、自ら発揮できたことも褒めてモデル化を図ります。
 また、学習者集団の力として、対話する力を高めていきたいと思っています。そのために、授業の中で集団での学びを豊かにするために、まずは、積極的に対話の場面を設定します。もちろん、何について話し合うのか・どのように話し合うのかの指導も併せてです。次に、対話を通して考えが広がったり、深まったりしたことを子ども達自身が実感する場面を設定します。このような授業を進めていきたいです。

宮市 温かい人間関係を築き、お互いに認め合い、学び合う学級をつくることが学びに向かう力を育成する土台であると考えます。そのため、日々の授業や生活の中で、私(教師)が児童一人ひとりの良さを積極的に認め、全体に広める場、また、児童同士が認め合う場を意図的に継続的に取り入れていきたいと思います。
 そのような土台を作りながら、どの教科でも、単元のゴールを明確にすること、自分の考えの変容や友達の考えの評価を振り返る場を設定した授業を積み重ねること、単元を終えた後に視点を明確にした振り返りを行うことを大切にしていきたいと思います。既習を使って解決する学び方等、児童が自ら学びに向かうために必要な考え方・学び方を全体で共有し、次の学習に意識して使えるように、また使えた時に評価づけることを大切にして、日々の授業をつくっていきたいと思います

司会 先ほど語っていただいた「今後の試み」をより具体化して話していただきました。ご自身の体験に基づいた貴重なお話をお聞きしました。今日話していただいたことは、コロナ禍のため、例年にない、より厳しい教育環境の中で実践していらっしゃる先生方にとって、とても参考になったことと思います。
 教師の仕事は、子どもの成長を目の当たりにできる素晴らしい仕事です。一人ひとりの教師が主体性を持ち、さらに自分を磨いていただくきっかけにければ幸いです。コロナ禍ではありますが、本日ご参加頂いた先生方にはこれからも体調に気を配られ、ご活躍されることを願っています。本日は本当にありがとうございました。


※ 座談会当日は、新型コロナウイル感染防止のため、「入室前のアルコール消毒・長机に一名着席・マスク着用・扉の開放しての換気)等を施しての開催でした。参加者の皆様にご理解・ご協力を頂き、厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。