この内容は、会報「教育のひろば石川・№160(令和4年2月発行)」に掲載したものです。
語り手と聞き手という対談形式で開催
これからの教育を担う若い教師への熱きメッセージ
~子どもそして親から信頼されるプロ教師への道~
野田 大介(金沢市味噌蔵町公民館長・元金沢市立十一屋小学校長 )
「令和3年11月3日(水・文化の日)文教会館」開催 メンバー
語り手 野田 大介(金沢市味噌蔵町公民館長・元十一屋小学校長 )
聞き手 山下 修一(金沢教育振興会 理事長)
記録者 釼地扶美子 (金沢教育振興会 幹事)
中泉 隆子 (金沢教育振興会 幹事)
第一部「学級集団づくり」
山下 野田先生は、金沢市教育委員会主催の初任者研修講師として、若い先生方に向けて色々なお話をされているとお聞きしました。何年くらい担当されていて、どんなお話をされているのでしょうか。
野田 13年間です。最初に受け持った先生は学校の中核として活躍されていることを聞くと嬉しくなります。特別なことではなく、自分の初任の頃を思い出して話をしています。素晴らしい校長先生、先輩、先生方との出会いは、自分の教員人生にとって大変有り難かったと思っています。
先生方は年々忙しく、目先のことをこなすことで精一杯になっているように感じます。それを見ていると、「なぜあなたは教師になったのですか」「教師として何を大切にしていきていくのですか」など、若い先生方に問いたいという思いで初任者研修に出席しています。
教師のすべきことは子どもの持てる力を引き出すことです。決して、自分の理想とすることを与えたり教え込んだりすることではありません。「あなたには、こんな力があるよ」「あなたはこんな素敵な人間だよ」と子ども達に気付かせることが教壇に立つ教師の使命だと思っています。
厳しさと愛情を持って子どもの前に立ちなさい。もっと実践を積むことが大事だという思いを若い先生方にぶつけているつもりです。
山下 今現場では、「GIGAスクール構想」が進められています。ICTの活用も大事ですが、教師は何を大切にして子ども達の前に立ったら良いと思われますか。
野田 GIGAスクール構想では、一人一台タブレットをを持ち、道具として活用することは良いと思います。でも、それが目的になってしまったら良くないと思います。私達が目指す授業は、誰に聞いても「全員が参加する授業」であると言います。そのための端末になっると良いのですが…。端末がノートに置き換わってしまっていないでしょうか。ノート指導は学力を付けるために大切だと思っていますので、端末に頼り、ノート指導を怠る授業は危惧します。
大事なことは、子ども達を自立させることです。将来的には、社会的な自立を創り出すことが私達の仕事です。また、子ども達から信頼される教師になることが重要です。
山下 子ども達から信頼される教師になるために、どうしたら良いでしょうか。
野田 基本的には、子どもとのコミュニケーションです。子どもの言葉を受けとめて丁寧に返していくことです。教師の丁寧な応答は、子どもに安心を与え、警戒心を解き、上手くやって行けそうだという希望を持たせます。言葉のキャッチボールを大切にして欲しいと思います。
さらに必要なことは、受容力と共感力です。ありのままを受け入れることで、子どもは自己の存在を肯定するようになり、周りの大人を信用して受け入れます。子どもはランドセルと一緒に生活の重荷を背負って学校へ来ていることを、教師は理解して欲しいですね。
山下 子ども達にとって、どんな集団を創っていったら良いでしょうか。お考えをお聞かせください。
野田 学級づくりとは、年度当初はバラバラな子ども達を一体感のある集団にしていくことです。子ども達が学級の仲間に優しさを持って関わると、お互いに認め合う雰囲気が創られます。どの子も学級に居場所ができ、顔が輝きます。学級に自由と一体感が生まれます。
そのためには、教師の見通しが大事です。最初の一ヶ月間が重要です。先ずやることは、けじめのある生活態度や学習習慣を定着させることですね。
山下 その実現に向けての具体的な教師の関わりについてお聞かせください。
野田 3つお話をします。四月当初、子ども達は自分の本当の姿を出していない。ある程度きちんと座って授業を聞いています。その時に、集団としてのルール作りをしておくことです。
関わりの一つ目は、全員の子どもが気持ちよく過ごせるためのルールの徹底を図るこです。授業中のトイレのこと、忘れ物をした時のこと、給食の準備のことなど、ルールは教師が決めても子どもと相談しながら決めても良いのです。大切なことは、個別に対応しないことです。学級全体で話し合い、共通理解をしたルール作りをすることなのです。
そして、教師がぶれることは決してあってはなりません。以前に言ったことと今日言ったこととが違えば、子ども達は納得しません。また、一部の子どもの言ったことを学級のルールにするようでは、他の子ども達はルールに従わなくなります。
若い先生方は、厳しくすると自分は厳しい先生だと思われるのではないかと心配しますが、子どもは厳しい先生が好きです。厳しさと優しさを持った先生を子ども達は求めています。厳しさがある先生のクラスでは、甘えん坊やボスがのさばらないので、おとなしい子どもにとっても居心地の良いクラスとなります。ルールをいい加減にしたばかりにクラスが高まっていかないことがよくあります。
二つ目は、学級の文化を高める学級目標や係活動を作ることです。学級目標は、子ども達に一体感を持たせるために大切であり、バラバラな子ども達を集団へと高めていきます。また、学級目標を作る際には、子ども達に丸投げしないことです。教師の学級への願いや思いを語り、子ども達の共感を得た上で子ども達に考えさせたいものですね。例えば、「全員が分かる授業をするために、先生は全力を尽くします」「この学級に一人でも嫌な思いを持って勉強や生活をしている子どもがいないようにしていきたい」など、意思表示をしたり熱いメッセージを伝えたりして、子ども達の心に響かせてほしいです。
学級目標が決まったら、学級を組織として活動させるための係活動や当番活動を子ども達の話し合いで分担させることです。例えば、黒板を消す、給食を配膳する、授業の始めと終わりの号令など、生活していくために必要な当番活動と学級目標の実現に向け学級の文化を高めていくための係活動を分担します。特に、係活動は学級全員で話し合い、知恵を出し合わせます。係活動が当番活動だけに終わっている学級はもったいない。「イベントをするような係・植物園を作る係・学級新聞係」など学級文化を高める活動があると学級目標に向かっている子どもの姿を見る思いがします。係活動について話し合いをすることで、子ども達の学級への帰属意識は高まっていくのです。
三つ目は、一人ひとりの子どもが仲間から認められる雰囲気を醸成することです。「みんな仲良く」「友達を大切に」など言っても、学校生活の中でお互いを大切にしなかったら実現しません。子どもが自らを活かし、友達を活かし、お互いを活かし活かされる喜びを感じ合えるようしたいものです。そのためには、学級全員の子どもに居場所を作ることです。教師が子どもとの関わりを丁寧に行い、その子の良い所を認め励ますことが大切です。
ところで、勉強が得意な子どもも苦手な子どもも、自分に誇りを持って自分を出し切れるような教師の関わりも必要です。勉強が得意な子どもが、さりげなく苦手な子どもに接し手助けをするような雰囲気があれば、苦手な子どもは分からなさを乗り越えようと、自分らしさを出して勉強に取り組むようになります。得意な子は仲間への優しさが育ち、自己の人間性を高めることになります。
さらに重要なことは、授業の中に「聴く」文化を育てることです。聴くこと・話すことの指導は、人への思いやりを育てることです。聴く側の頭の中に、聴いたことによる納得だとか・疑問だとか・驚きだとか、様々な感情の揺れや思考の変化が起こることが大事です。聞き手が話し手に関心があって、相手の話を聴き取り理解したいという思いがないとそうなりません。聴くことは、エネルギーが必要です。それは相手への優しさの表れだと思っています。話すことも、相手に自分の考えをなんとか伝えたい、分かって欲しいという思いを育てることになります。
先ず教師が聴くことですね。子どもの目を見てしっかり聴いていたら、その姿を見て子どもも友達の話を聴く姿に変容するようになるのです。
山下 学ぶ集団を創りあげる時に、日々教師はどんなことを大切にすれば良いかについてお聞かせください。
野田 勉強の苦手な子が卑屈にならないで、授業に参加できるのは、勉強の得意な子の姿勢によるとお話ししましたが、視点を変えると、勉強の得意な子が教室の中で活かされているのでしょうか。甘い教材研究で授業に臨んでいる教師のクラスだと、勉強の得意な子やもっともっと頑張りたいと思っている子が活かされていないのではないかと危惧するのです。教師の教材研究不足が最近の問題です。教えることは、甘いことではない。教師が納得した上で教壇に立たないと、様々な子どもの思いや問いに対応できないと思っています。
大村はま先生は「研究しない教師は教師ではない」と言っていました。子どもは勉強が分かるようになりたいと思って、苦しくても頑張っています。その子どもに接する教師は、自分も苦しみの中から一生懸命勉強することです。まさに、教師自身が子どもと共に伸びようと思って教壇に立っているかどうかが一番大切なことだと思っています。
山下 目の前の子どもを大切にして、子ども達の力を引き出す教師になって欲しいというお気持ちが伝わって来ます。次に、保護者との人間関係づくりについてお考えをお聞かせください。
野田 私が教員として採用された一九七〇年代前半は、保護者と教員は良好な関係でした。教職経験が乏しいのにもかかわらず、保護者や地域の方から親しく接してもらい、ねぎらいの言葉をかけていただくこともしばしばありました。おかげで教育実践に打ち込むことができました。
1980年代に入る頃から、状況が変化してきました。おちこぼれ・学校不信・教育崩壊・いじめ・不登校・校内暴力・体罰…近年は親による児童虐待などが増加するに伴って、教師と保護者との良好な関係が作りにくくなってきました。どこの学校でも、保護者とのトラブルに対応する時間が増加しているように思われます。子ども達が充実した学校生活を送り、日々成長していく上で、保護者と教師が良い関係を作り、「子育て共同体」として連携することは欠かせません。先ずは、家庭や保護者がおかれている状況を理解することです。近頃、子育ての悩みを相談できる相手や機会が少なく、孤独感とやり場のない苛立ちを感じている保護者が見られます。それが時には、身近な学校へクレームとしてぶつけられます。それを理解して保護者と関わることです。ポイントは三つあります。
一つ目は、保護者からのクレームは話を十分に聞き「聞き役」に徹することです。保護者からの電話対応の基本は、「ご心配をおかけしまして、申し訳ありません」です。理不尽なことであっても、学校のことで心配されたのです。誠実に話を聞くことで、保護者の気持ちも落ち着いてきます。時間がかかっても、最後まで聞いてからきちんと事実を話します。保護者が誤解している場合もあるので冷静に凜として事実を伝えることです。
二つ目は、「きちんと向かい合う」ことです。はねつけたりその場しのぎのことを言ったり、くどくど弁解することは良くありません。教師の誠実な対応で解決の道がひらかれます。学校や教員が気が付かないことを指摘していたり、学校に対する積極的な提言を含んでいることもあるので、真摯に対応しましょう。
三つ目は、直接会って話し合うことです。電話では、感情のおもむくままに発言することが多いので、直接会って話したいことを伝えます。相手の都合に合わせて時間や場所を設定します。一方的に学校に呼びつけることは避けましょう。そして、事前に管理職や先輩の教師に報告して対応の仕方を相談します。話し合いは一人でなく、必ず複数名同席してもらうことです。
山下 三つのキーワードをいただきました。パートナーとして共に子どもを育てこと・聴くということ・フェイスTOフェイスで直接会うことがポイントですね。その他に必要だと思われることはありますか。
野田 子どもの良いところを伝えることです。連絡帳がランドセルを一気に重くすることがあります。「今日も忘れ物をしました」「けんかをしました」などと書かれると、子どもは家に帰ってこれを見せるのかと思うと心が重くなります。連絡帳は出来るだけ軽いものにしてあげましょう。
教師は、子どもの欠点ばかりを見てしまいがちになります。大切なのは、子どもの「良い所」を見つけることです。「良くなりたい」と頑張っていることを見逃さず、本人に言うだけでなく、保護者に伝えることです。保護者の子どもを見る目が変わります。教師への信頼も生まれます。保護者にも「我が子の良い所を見つけるように」と働きかけることで、子どもの笑顔が見られるようになってきます。
また、保護者とコミュニケーションする力を付けることも大事です。謙虚に保護者と向き合いましょう。「子育てには大きな喜びやご苦労がおありでしょう。いろいろと教えてください」と話すことです。学級懇談会では、写真や作品など具体物を使って子どもや学級を伝えると、場が和らぎます。
保護者の心をつかむ一番の道は、学級経営をしっかりすること、授業をしっかりすることです。それは、子どもが学校へ行く楽しみになります。保護者は我が子が楽しそうに学校へ行く姿を見ると安心します。子どもが学校のことを楽しそうに話すと、クレームは付けにくくなります。
山下 昨今、いじめと不登校が大きな問題となっています。いじめについては、教師はどのように対応したらよいのでしょう。
野田 いじめに対する対応は、甘いと思われます。「いじめは重大な人権への侵害です「「いじめは犯罪です」「いじめは相手の生きる力を奪う暴力です」という強い思いで、教師は子どものいじめに向き合ってもらいたいと強く思います。いじめはいつでもどこでもおきます。誰もが加害者にも被害者にもなる可能性があります。いじめられている子どもが教師に相談したり訴えたりするのが少ないのは、「先生は自分を守ってくれている」という信頼がないからです。子どもは教師がどこまで真剣なのかを見ています。教師の人権意識の高さを日頃の言動から感じ取っているのです。人権意識を高めるために教師は常に自分の言動を反省しながら、人間性を高めていくことが必要です。さらに、学校全体のモラルの高まりも求められます。
とは言っても、いじめは教師の見えない所で起きています。いじめが解消しても、再び起きることもあります。決して安心できません。時には、重大ないじめに発展することもあります。学校内では情報を共有しながら、チームを組んで対応にあたることが大事です。警察や児童相談所等外部専門機関との連携が必要になる場合もあります。
いじめている子どもは、学校や家庭で満たされていないことがあります。自分が受け入れられているという実感が乏しいのです。いじめている子どもの心理的状況を知って、指導にあたることが大切です。
学校でのいじめ問題は、子ども同士の問題以上に保護者同士のトラブルになる場合があります。加害者、被害者の子どもの保護者の対応は、事実を調査して納得できる説明が必要です。事実を伝える際には、十分な配慮がいります。被害者の保護者に事実を伝える際には、学校がいじめに気が付かなかったことを深く謝罪して、今後は子どもを守り、いじめを解決することを約束して、学校への信頼を回復することに努めることです。加害者の保護者には、子どもと同席してもらい、いじめの事実を認めてもらうことに最善をつくします。そして、保護者からの謝罪の言葉を引き出すことです。
いじめを予防する取組としては、先程述べたように、日頃から教職員の人権感覚を高めるための研修を怠らないことといじめのサインに敏感になって、早期発見、早期対応をすることです。
山下 不登校の問題についても、どのようにとらえていけばよいのでしょうか。
野田 不登校になる原因は様々です。きっかけは様々ですが、不登校の子どもの多くは、人間関係作りが苦手なようです。そのため、学校生活にストレスを感じ、それに対処できない自分に自信を失っているのです。そんな子ども達は、学校生活を「辛いな」「苦しいな」「いやだな」と思っています。学校でしなければいけないことができずにいる自分に自信を失い、学校にいられなくなっているのです。学校生活のストレスに打ち勝つ元気を失っている状態だと言えます。
不登校になった子どもに、担任として先ず、子どもが元気を回復するように話し相手になるなど、良き理解者・支援者として接することが大切です。子どもの関心のあることややりたいことを理解して支援する気持ちで接することですね。 保護者には、良き相談者として向き合いましょう。不登校の子どものことを最も心配してストレスを感じているのは保護者です。そして、保護者の愛情が不登校の子どもの大きな支えとなります。
子どもがすぐ学校へ行けなくても、家から外へ出られるようにすることに取り組むことが必要です。担任教師は、教育相談担当者やスクールカウンセラーと共に良き相談者となることです。子どもが元気になるために適した支援者や施設等の情報を提供することも大切です。
不登校の対応で最も重要なことは、子どもの社会的自立です。短期的に学校へ出させようと考えないで、「将来的に自立できること」を大きな目標にすることです。
山下 本日は「学級集団作り」を中心に野田先生に語っていただきました。プロ教師の道を歩みたいと思っている先生方に刺激とアドバイスになれば幸いです。